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2011年12月

侘び桜、寂び桜

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仕事柄、桜のことを考える季節になりました。


思いを馳せていたら、今年の春に見た桜を鮮明に思い出しました。その桜は長野県小布施の友人が、隣町の高山村黒部にわざわざ連れて行って見せてくれたものです。


それは、傾斜地にある田んぼのなかでひっそりと咲いている奥ゆかしい桜でした。枝振りも花の付け方も見事なもので、いわゆる一般的な桜とは違う品種であることが一目見てわかりました。ソメイヨシノとは趣を異にするうっすらと紅を帯びた花。花びら自体もやや小さめで、散る時には粉雪が舞い落ちるような感じがする桜です。


樹齢五百年の江戸彼岸。


幹は岩のようにごつごつしていますが、しなやかに枝を伸ばしています。支え木で押さえられてはいるものの花の勢いはまだ衰えていません。五百年もの長き時を生きてきただけあって風格があります。エドヒガンはヤマザクラと同様に野生種と言われていますから、生命力が強いのかもしれません。まさに美しさと逞しさを兼ね備えた桜と言えます。


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有名なソメイヨシノは、このエドヒガン系(コマツオトメという説もあります)とオオシマザクラを交配した種という説が現在有力です。


ソメイヨシノが人工的に作られた桜ということは多くの人がご存じのことだと思います。桜と言えばソメイヨシノと言えるほど、その人気は不動のもの。言わばトップモデルの地位にある桜といえるでしょう。一方のエドヒガンと言えば、市井の美人と言える桜ではないでしょうか。どちらがお好みかは人によって意見が分かれるでしょう。


美しさにおいては引けを取らないと思いますが、華やかさにおいてはソメイヨシノに軍配が挙がるかもしれません。それもそのはず、数と密集度に圧倒的な違いがあるからだと思います。公園や並木などに利用されているソメイヨシノに対して、エドヒガンがまとまって咲いているところは見かけません。


ところが、高山村黒部にあるエドヒガンにはソメイヨシノに勝るとも劣らない不思議な美しさがありました。田んぼのなかにひっそりと咲いているにも関わらず…

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樹齢五百年と言えば、関ヶ原の戦いより前から生きているということです。長い時間を生きてきた歴史が木に宿っているとは言いませんが、その風貌から漂ってくるたおやかさが見る者の心を震わせるような気がしてなりませんでした。


来る年も来る年も、春先の野良仕事をする農民たちの目を楽しませてくれたエドヒガン。ひょっとすると、雅な心を持った農夫の一人が心の糧にするために植えたものなのかも…そんなことを勝手に想像。だとしたら、いったい何代にわたって地域に人たちを喜ばせてきたのだろうと感動してしまいます。そして時代は変わって現代、今なお大勢の人たちがこの桜のもとに足を運んでいます。


遠くの山を借景に、田んぼにひっそりと咲くエドヒガン。その姿を見ていたら、侘び桜、寂び桜という言葉が思い浮かびました。

(2011.4.30/長野県・高山村 ゴールデンウィークに訪問した小布施の回想…その4)

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超巨大ブランドの憂鬱

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今秋、京都に行きました…


京都北西部を流れる清滝川に沿って栂ノ尾[つがのお]、槇ノ尾[まきのお]、高雄(尾)[たかお]と呼ばれる集落があります。これらを総称して三尾と呼ぶようです。


今回歩いたのは、いわゆる「紅葉の三尾めぐり」というコース。栂ノ尾の高山寺、槇ノ尾の西明寺、高雄の神護寺を歩いてきました。観光名所として名高い京都ですが、こちらの三尾に関しては大勢の人でごったがえすというような場所ではないようで、比較的ゆっくりと見ることができました。ただし、高雄の神護寺に関してはそれなりの人出があり、「さすが観光地」といった雰囲気でした。

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古都の紅葉を見に行くという大きなテーマのもとに京都に向かったわけでありますが、行く前からかなり気になっていたことがあります。それが三尾という呼称。確かに栂ノ尾、槇ノ尾、高雄(尾)を合わせて三尾という名称がつけられているのは理解できます。でも“尾”ってどんな意味なんでしょう?

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会社の先輩に聞いたら尾とは集落の意味で、それが三つ集まっているから三尾なんだと一蹴されました。その回答に「はぁ、そうですか」と応えたものの、まったく納得できない自分。仕方ないので自分で答を探すことに…

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ネットで検索すると、それとなく同意できる解説を見つけることができました。


百人一首のなかに“尾”という言葉が出てくるものがあります。


高砂の尾の上の桜 咲きにけり
外山の霞 たたずもあらなむ

       権中納言匡房


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この歌に出てくる“尾の上”とは峰の上という意味だそうです。ということは、尾とは峰を意味すると理解していいのではないでしょうか。確かに山の稜線を尾根と言ったりします。


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最近の道路地図はとても親切なことに等高線が記されています。地図上で三尾を見ると、等高線の間隔が比較的狭い場所に位置しています。つまり傾斜地にあるということでしょう。確かに高山寺と神護寺は階段を上っていった場所にありました。西明寺はそれほどではありませんでしたが、次に訪問した神護寺の登山口までかなり下りました。それを考えると、それなりに高い場所にあることがうかがえます。

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自分の足と目で確かめた結果、尾とは峰を意味すると判断しました。(間違っているかもしれませんが…)

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さて、三尾めぐりも終わったところで嵐山に向かいます。う〜ん、修学旅行で来たはずなのですが、まったく記憶がありません。紅葉もいまひとつ。紅葉については、ガイドさんの話によると今年ははずれ年だそうです。色づきが悪く、枯れているような色になってしまったところがほとんどだそうです。この件については、京都に限らず全国的にその傾向があったように思います。

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これはすごい。桂川にかかる渡月橋が大渋滞です。橋を渡ると日本語以外にも中国語、韓国語、タイ語、英語などいろいろな言葉が聞こえてきます。まさに民族大移動の橋と化した嵐山のシンボルでした。こうなってくると古都のイメージなど吹っ飛んでしまいます。


見たい京都と見たくない京都があるとしたら、これはあまり見たくない方の部類ではないでしょうか。この日の嵐山は東京並みの渋滞・混雑。観光地としての名声・実力を感じる一方、一流ブランドとしての悩みも見て取れる風景です。


どんなに混んでいようとも、やっぱり行ってみたいのが京都。旅心を刺激して止まない古都の魅力とはいったい何なんでしょう。次に行くときにはその点について考えてみたいと思います。

(2011.11.23/京都市)

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鉄ちゃん垂涎の終着駅/「旅を見つける旅」完結編(後編)

“仕事”という暴走列車の通過待ち合わせのため、ブログの更新が大幅に遅れました。


「旅を見つける旅」の後編は、これといった盛り上がりもなく淡々と終着駅に向かう道のりを紹介することになりそうです。


渓谷を走るローカル列車の車窓の向こうに見える絶景。燃えるような紅葉を想像していた私の目に映ったのは…



山形県の米沢を出発した米坂線・キハ110。すでに新潟との県境に近づいています。このあたりは渓谷の景色としてはクライマックスの区間です。ところが、ところがです。この区間はあまりにもトンネルが多い区間で、渓谷の景色を長時間眺められないのです。うぉ〜っ、なんたる誤算!


よ〜く、道路地図を見ていればそんなことにすぐさま気がついたはず。とほほ。


どちらかというと、自分は不注意且つおっちょこちょいの性格。忘れていました。自分の特性を。


正直に申し上げましょう。米坂線に乗る自分を想像したときから、頭のなかは紅葉の景色一色に染まってしまい、ほかに何も見えなくなっていました。

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呆然としている自分を鼓舞しながら、やっと撮ったのがご覧の一枚。ローカル線と言えどもそこそこのスピードが出ています。自慢のデジカメ・リコーCX3ですが、私の眼力と腕が悪いせいでワンテンポ遅れたシーンしか収められません。ほんの数カット撮影して諦め、座席にもどっておとなしくしていることにしました。


渓谷を造る荒川は、新潟県に入ってしまうと川幅がグンと広がり、緩やかな流れになります。その景色が予想外に素敵な景色で、思わず見とれてしまいました。


見とれてしまう=写真は撮っていない。そうなんです、カメラを構えることさえ忘れ、ぼぉ〜っと眺めてしまいました。


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そして、ローカル線の旅は終着駅・坂町駅でいったん小休止となります。

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ここが坂町駅のホーム。静かです。とても静かです。

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とりあえず、挨拶代わりに駅の風景を数枚カメラに収めることに。

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ところが、ここに写った風景の一部が鉄ちゃんのS君を異常に刺激することとなります。


それがこの風景。一般の方にはどうということはない駅周辺の風景でしょう。

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さらにもう一枚。こちらなど、外壁が落ちて崩れかかっている廃工場って感じです。でもここにはS君をとてつもなく熱くさせるものが写っているのです。


「あそこまで行こうぜ!」。そう言うなり歩き始めるS君。雨がぽつりぽつりとするなか、上着のフードを被ってついていく自分。

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坂町駅の改札をいそいそと通り過ぎ、駅前を歩き始めるおやじ二人。

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坂町駅前はホーム以上に静かでした。広い駅前通りです。高い建物がないことも影響しているせいか、妙に開放感がある駅前です。地方の駅らしくてとても好感が持てます。人によっては寂しい駅前と言うかもしれませんが、自分はこんな空気感がとても好きです。


そんな郷愁に浸っている私のことなどおかまいなしにS君はすたすたと先を急ぎます。

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待ってました! と言わんばかりの距離に、向こう側に渡る跨線橋があります。まるで仕組まれたかのような展開です。こうなると、S君を主人公にしたストーリーが繰り広げられるのは火を見るより明らかでした。長年の付き合いでこうしたことが度々、しかも突然起こることが幾度となくありました。まるでデジャヴを見るような気分の私…

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「見ろよ! これ。何だかわかるかい?」


「はぁ〜ん、タンクだな」


「そうだよ。でも、ただのタンクじゃないぜ。これはよぉ〜、SLの水を補給するタンクなんだぜ」


しばらくしてわかったことですが、坂町駅を区間に含む羽越本線にはイベント用のSLが走っているそうで、今でもこのタンクは現役で活躍しているそうです。そんな情報さえ、S君にかかれば瞬時に収集可能なのです。恐るべき鉄ちゃんの行動力。帰路につく前、駅員と何やら親密に話しているS君の姿を見たので、その時聞いてきたのだと思います。

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S君を異様に熱くさせた物体をアップにしてみました。この緑色の小さな橋のようなものが彼のエナジーを一気に開放させることになります。


「これはよぉ、転車台って言うんだよ」


この緑の台の上にSLを載せて回転させるそうです。電気機関車・ディーゼル機関車の導入で不要になり各地で撤去が進んでいます。


「きみ〜っ、こりゃぁものすごい貴重なものを見たってことだぜ!」


超ど級の興奮状態に面食らい、返す言葉もない私にS君は次の鞭をくれます。

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「見ろよ、これ! これなんだかわかるか? ここにSLがずらりと並んでいたんだぜ!」


単なる廃屋、いや廃工場だと思っていたものは「扇形車庫」と呼ばれるものだそうです。写真の左下部分を見るとわかるように、二本のレールが扇状に車庫へ伸びています。ちょうど転車台が扇の“要”の部分と言えるのではないでしょうか。


さらにヒートアップするS君。


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車庫の脇で何かを叫ぶS君。両腕を天に伸ばし垂直に振り下ろしています。その二本の腕は鉄道のレールを意味しているようです。


「この車庫の脇にもうひとつ車庫があったんだぜ。その証拠に線路の形跡がある!」


もう独壇場です。誰も止めることはできないでしょう。


並の人が聞いたら“どん引き”間違いなしの大袈裟な身振り付きの解説。ここで私も一歩下がって冷静に聞いていたいところですが、半歩ぐらい前に身を乗り出してしまいます。そんな微妙な反応に、鉄ちゃんの素質が潜んでいる自分を感じてしまいました。

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一通りの熱い解説を終えたS君は、満足げに坂町駅に戻っていきます。足元には鮭が彫られたマンホールの蓋がありました。そこには荒川町と書いてあります。すでにここは村上市になっているはずですが、マンホールの蓋はそのままのようでした。

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坂町駅から米沢へ帰る気動車はE120のオレンジの車両でした。

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こちらは羽越本線を走る車両。電気機関車ですね。詳しいことはわかりませんが、これはかつて常磐線を走っていた車両と同じではないでしょうか。色は違いますが、とても懐かしく思いました。正直に申し上げて、現在の常磐線の車両より写真の型の車両の方が私は好きです。

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こちらは今泉という駅で停車したときに撮った車両。雪かき用の車両でしょうか。ラッセル車というのかもしれません。詳しくはS君に聞けば何でも教えてくれるのですが、車両には他のお客さんがいる手前、熱血講義が始まってしまうとたいへんなので質問はひかえることにしました。


渓谷を走る爽やか列車の旅となるはずだった今回の爆走旅行ですが、蓋を開けてみたらS君のための鉄ちゃん旅行になっていました。


「ものすごい貴重なものを見たキミはすごいラッキーだぜ!」

「転車台と扇形車庫、そしてタンクの三点セットが一か所に残っているのは全国でも少ないんだぜ」


う〜ん、そう言われるとなんか得した気分にもなれます。彼の言う通り、貴重なものが見られたラッキーな一日とすることにしましょう。

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帰路は、米沢から福島県の北塩原村に通じる「西吾妻スカイバレー」を走り帰ってきました。この道は何度となく通った道であり、大好きな道のひとつです。日も暮れようとする6時過ぎ、磐梯山と檜原湖を撮り収めに家路を急ぎました。

(2011.10.30/山形県米沢市・新潟県村上市)

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